そして、遺骸が嘶く/酒場御行
こんにちは。
今日の本は、酒場御行さんの「そして、遺骸が嘶く〜死者たちの手紙〜」です。
統合歴六四二年、クゼの丘。
終戦から二年、狙撃兵・キャスケットは、陸軍遺品返還部のひとりとして、兵士たちの最後の言伝を届ける任務を担っていた。
遺族に出会う度に、キャスケットは、いろいろなことを思い返す。死んでいった家族や、友や仲間のことを。
「誰かを殺す瞬間」と「自分の死に向き合う瞬間」果たして、どちらのほうが辛いのか?生きるとは何か?死ぬとは何か?
それは私が、幼い頃から問い続けたことだった。
戦争や命に関する本を読み、テレビの特集も見た。何年もかけて考え続けたが、答えなど出るはずもなく…
ただ、人が人を殺すということ。大切な家族や友人がいる誰かの命を、大切な家族や友人がいる誰かが終わらせなくてはいけないということ。そんなこと、あってはならないということ。それは、強く思いました。
END
図書館ホスピタル(三萩せんや)
本には、人を癒す力がある。
自分の気持ちを代弁してくれているように感じられたり、こうしたらいいんだと感じられたりする瞬間。本を読む人なら、必ず、経験したことがあるでしょう。
図書館ホスピタルという小説は、病院の跡地にある私設図書館のスタッフと利用者との心温まる物語。
「あの病院に行けば病気が治る」と評判の病院が閉院。その跡地にできた、私設図書館もまた「あの図書館に行けば元気になれる」と評判だった。
何かを抱えた利用者たちが訪れる。スタッフとの出会い、本との出会いで、気持ちが軽くなり表情が変わる。
就活がうまくいかずに私設図書館で働くようになった主人公は、これまでに本を読んだことはほとんどない。しかし、他のスタッフや利用者との関わる中で、本を読んでみようと思うようになる。
笑顔と物語。
それは、副作用のない薬と言ってもいいかもしれない。
不安や心配で気持ちが晴れないとき。
一冊の本、穏やかな微笑みがあれば、気持ちに変化が起こる。
あぁ…私もいつかは、こんな私設図書館を開くことができたらいいなぁ…と思わせてくれる一冊でした。
貴方のために綴る18の物語/岡崎琢磨
辛くて、悲しくて、生きていくことに希望を見出せないとき。誰かがそっと手を差し伸べてくれたら、その手を握り返すこと、あなたにはできますか…?
死にたいほど追い詰められた女性が、見知らぬ老人に、短い物語を読むだけの仕事を頼まれるところから始まる。
最初の1週間は、軽い感じで読み進めることができるものばかり。
次の1週間は、自分の過去と重なる、胸糞悪いものばかり。
最後の1週間は、優しさが溢れたものばかり…
そして、18個目の物語は…ガンで亡くなった恋人からの手紙だった…
優しさや温もり。
今は辛くとも、生きてさえいれば必ず、自分に合った愛の形に巡り合うことができる。だから、生きてほしい。
自分の死と向き合いながら、大切な人に向けたメッセージを、小説という形で残す…
物語の持つ力は、とても大きなものなのだなと思うことができました。
スキマワラシ(恩田陸)
座敷童子。
怖い存在ではないと知りつつも、よくわからない、不思議な存在。
恩田陸さんのスキマワラシを読んで思ったのは、見えるはずのない存在に出会ったとき。私たちは、どんな反応をするのだろう?悪さをする存在でないとわかっていても、やはり、怖いとか、気味が悪いとか、思うものなのだろうか?ということ。
古い建物や物があるところに現れる、スキマワラシ。幼い頃に亡くなった両親が、それに関係しているらしい…
古物商の兄と、弟。いまスキマワラシを見たり話を聞いたりするのは、いま両親のことを知るタイミングだからではないか?そう感じ、少しずつ、スキマワラシに近づいていく。
いままで感じてきたこと、遠い日の記憶…そういうものとの折り合いを、少しずつ、少しずつ、つけていく。最後には、自分たちが知っていればいいことだからと、大切な人に対して、自分たちの答えをいますぐには伝えないという結論を出す。
ちょっとの切なさと、温かな気持ちを残して、物語は終わる。
これまでに読んできた恩田陸さんの作品とは、少し雰囲気が違うなぁと感じました。でも、やっぱり、不思議な世界観は、恩田ワールドとしか表現できません。
日常の中の、非日常。それを味わってみたいという方は、ぜひ、読んでみてください。
あの人が同窓会に来ない理由(はらだみずき)
こんにちは。本と道草です。
今日は、はらだみずきさんの「あの人が同窓会に来ない理由」についてのブログです。
同窓会。
みなさんは、必ず参加をしますか?それとも、あまり参加しない人?
私は後者です。中学の、一番最初に開催された同窓会には参加しました。しかし、それ以降は小学校も中学校も、参加はしていません。
「あまりいい思い出がないから」と言ってしまえば、それまでなのですが。特別に会いたい人がいるわけでもなく、もともと大人数での雑談が苦手ということもあり、なかなか行く気になれません。
この小説の中でも、同窓会に参加しない人が何人かいます。多感な時期に同じ教室で過ごした仲間とはいえ、多感な年頃だからこそ、教室で過ごす時間というのは、いろんな意味で濃いものだと感じます。
ちょっとしたすれ違いで嫌な思いをしたり。ちょっとした誤解で、ひとりだけ孤立してしまったり。大人になった今なら、ちょっとした気遣いや思いやりで仲良くやれるのだろうと思うのだけど…子供の頃、特に中学生の頃には、自分のことで精一杯になりがちなこともあり、うまく立ち回れない。謝ったり、逃げたりということが、なかなかうまくいかない。
卒業してからの人生は、人によって様々。進学した高校や大学、就職した会社、結婚・出産…それぞれに、いろんな生き方があって、ずっと中学生の頃と同じまま大人になるなんてことはない。本質的なところは変わらないのかもしれないけれど。
だからこそ、中学校の同窓会には行きづらいと感じる人も、たぶん、それなりに沢山いるのだと思います。行くきっかけがあれば行きたいけど…みたいな。
大人になるということや、過去の出来事に対しての後悔や、楽しかった思い出や、卒業した後のつまづき…いろんなものが重なり合って、今の自分があるのだなぁと。
まとまりがなく、何がいいたいのかよくわからない文章になってしまいましたが…
いろんな人生を、ゆっくりと語らえる誰かがいたら、すごく幸せなのだろうなと感じる一冊でした。
ルビィ(重松清)
随分と間が空いてしまいました。
久々の、本とみちくさの記事です。
今回は、重松清さんの「ルビィ」という小説について書きます。
重松清さんといえば、何年か前に「流星ワゴン」がテレビドラマになりました。
ドラマも良かったけれど、やはり私は、小説の流星ワゴンのほうが好きです。重松清さんの優しい文章のほうが、主人公や主人公に関係する人たちの、その時々の気持ちや気持ちの流れがすんなりと自分の中に入り込んでくる感覚がするからです。
さて。「ルビィ」は、売れない作家で自殺を図ったダザイさんが、ルビィと名乗る少女と出会うことで物語が始まります。
「7人の命を救わないと天国に行けない」ルビィと共に、ダザイさんも死を間近にする人たちを救う旅に出ます。
年齢や性別を超えて、自分と同じ痛みを抱えた人たちを、どうにか、死から少しでも遠ざけようと奮闘する2人。
同年代の誰か、徐々に生きることを諦めていくしかなかった誰か、かつて少年だった自分と似たような痛みを抱えた誰か。見知らぬ誰かも、いつかの自分と似た痛みを抱え、それでも必死に生きてきた。でも、それももう、限界に近いとこれまで追い詰められていた…
他の誰かからしたら、死ぬほどの痛みではないのかもしれない。でも、痛みは人それぞれ違うもの。
ちょっとの優しさ、ちょっとの勇気で、救われる人もいるのではないか…そんなふうに考えさせられた一冊です。
映画の話。
今日は、本ではなくて、映画のこと。
昔は、映画は映画館で観る!って決めていましたが…最近はそうでもなくて、dvdを借りてきたり、スマホ(Netflix)で、っていう感じが多いです。
少し話が逸れますが。
本が好きな人って、映画とか、音楽とか、そういうのも好き!っていう人が多い印象。
なんででしょうね…?
最近、私が観て、いいなぁ…素敵だなぁ…と思った映画がふたつあります。
ひとつは、「ツナグ」です。辻村深月さんという作家さんの小説が元になっています。
生きる者と死者を繋ぐ人。それが、ツナグです。
出会いも、別れも、人それぞれ。後悔していること、伝えたい想いも人それぞれ。
再開を果たして、気持ちの整理がつく人もいれば、荷物を背負ったまま生きていかなくてはいけない人もいる…
ツナグを使えるのは、生きている人にとっても、死者にとっても、一度きり。あなたは、誰に会いたいですか??
ふたつめは、「コーヒーが冷めないうちに」です。
ある喫茶店の、ある席は、戻りたい過去にタイムスリップができるという噂がある…
過去に戻るにはいくつかルールがあって、そのうちのひとつが「コーヒーを冷めないうちに飲み切ること」です。もしルールを守らなければ、こちらの時間に戻ることはできません。
あなたが戻りたい時間は、いつですか…?
生きること、死ぬこと。
やり直したいこと。
伝えたかった想い。
それぞれに、いろんな考えがあり、後悔があるのだと思います。
みんな、なんとか折り合いをつけながら、日々の暮らしを続けている…目の前にいる人の背景を知りたい。大切な人の想いに寄り添いたい。
好きか嫌いかで相手を見るより、そう思うようになったキッカケを知りたい。そうすれば、きっと、少しだけ、優しく暖かい社会になると信じます。